原状回復にかかる判例【事例25】
[事例25]
本件敷引特約は、消費者契約法10条により無効であるとされた事例
西宮簡易裁判所判決 平成19年2月6日
〔敷金80万円 返還79万4831円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xと賃貸人Yとは、平成16年3月22日本件建物につき、賃料月額13万5000円、契約期間2年、敷金(保証金)80万円、解約時敷引金50万円として本件賃貸借契約を締結し、賃借人Xは賃貸人Yに対して、敷金80万円を交付した。
賃借人Xは、1か月以上前に解約を予告したうえ、平成17年6月末日、本件建物を賃貸人Yに明け渡した。
賃借人Xは、本件敷引特約は消費者契約法10条により無効であるとして、敷金80万円等の返還を求めて訴えを提起した。賃貸人Yは、本件敷引特約は有効であるとして、返還すべき敷金は、敷引金、原状回復費用(賃借人の故意または過失による傷がある洗面台と、一体であるミラーキャビネットの入れ替え工事の費用)及び水道料金立替金を控除した残額であると主張して争った。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃貸人Yが営む不動産賃貸業が本業か副業かに関わらず、法人である賃貸人Yは消費者
契約法における「事業者」である。賃借人Xは事業としてまたは事業のために契約した
ものでないことは明らかであり、消費者契約法上の「消費者」である。不動産仲介業者
を通じて賃貸借契約が締結されても変わりはなく、本件賃貸借契約には消費者契約法が
適用される。
(2)本件敷引特約は、敷引金は敷金の約62.5%、毎月の賃料の約3.7倍であること、賃貸借
契約期間の長短や契約終了事由にかかわらず、また、損害の有無にかかわらず無条件で
当然に差し引かれるものであり、賃借人Xに一方的で不当に不利な内容である。したが
って、本件敷引特約は、消費者契約法10条に該当し無効である。
(3)洗面台については、賃借人Xが入居した時点で既にある程度の経年期間があったと考え
られ、線状の傷は認められるものの、その深さや長さは明確ではなく、賃借人Xが故意
又は過失により洗面台に傷をつけたとまでは言えない。
(4)以上から、敷金80万円のうち、賃貸人Yが立替払をしていた水道料金5169円を控除し
た金79万4831円の返還を賃貸人Yに対して命じた。