原状回復にかかる判例【事例26】
[事例26]
カビの発生は賃借人の手入れに問題があった結果であるが、経過年数を考慮するとクロスの
張替えに賃借人が負担すべき費用はない、との判断を示した事例。
川口簡易裁判所判決 平成19年5月29日
〔敷金 13万8000円 返還 11万1330円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、昭和63年1月20日、本件建物につき訴外会社と賃貸借契約を締結し、2年毎に合意更新した(更新料は新賃料の1か月分)。賃貸人Yは、平成14年12月4日、訴外会社から本件建物を買い受けて本件賃貸借契約の賃貸人の地位を承継した。
平成15年12月21日、賃借人Xは賃貸人Yとの間で、賃料月額6万9000円、期間2年、敷金13万8000円、更新料は新賃料の1か月分として、更新契約を締結した。
その後、本件賃貸借契約は平成17年12月頃に合意更新され、平成18年4月30日、合意により終了し、賃借人Xは同日、賃貸人Yに対して本件建物を明け渡した。
賃借人Xは、本件敷金のうち、賃借人Xが負担すべき原状回復費用1050円を控除した13万6950円の返還と、消費者契約法10条により無効である更新料支払特約に基づいて支払った2回分の更新料合計金額13万8000円の支払いを求めて訴えを提起した。賃貸人Yは、賃借人Xの善管注意義務違反の使用方法及び喫煙により本件建物を汚損・毀損し、原状回復費用のうち賃借人Xは、22万420円を負担すべきであるので返還すべき敷金はないこと、更新料支払特約は有効であること等を主張して争った。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人Xは、本件建物を18年以上もの間賃借していたものであり、その間、一度も内
装の修理、交換は行われておらず、和室畳が汚損・破損しており、襖や扉にタバコのヤ
ニが付着して黄色く変色していても、時間の経過に伴って生じた自然の損耗・汚損とい
うべきである。
(2)各部屋のカビは、賃借人Xの部屋の管理及びカビが発生した後の手入れに問題があった
結果でもある。しかし、経過年数を考慮すると、クロスに関しては、賃借人Xの負担す
べき原状回復費はないとするのが相当である。
(3)天井塗装及び玄関扉のサビ、クロス下地のボード等に関しては、費用の20%を残存価
値として賃借人Xの負担すべき額とするのが相当である。
(4)和室の窓のカビ防止シールを剥がすために要した費用の負担(1050円)は賃借人Xも
認めている。
(5)この他、更新料支払の合意は消費者契約法10条に反して無効であるとはいえない。
(6)以上から、敷金から2万6670円を控除した11万1330円の支払を賃貸人Yに対して命じ
た。