賃貸で自殺が起きた際の損害賠償等の質問
賃貸物件で事故が発生した際の質問集
はじめに
賃貸で自殺が起きた場合の遺族や連帯保証人への損害賠償の額は?
賃貸物件で自殺が発生した場合の損害賠償については一律に規定した法律はありません。従って、具体的な事案毎に裁判所にてその損害を認定することとなります。
自殺が起きた場合に貸主から遺族や連帯保証人に請求される一般的なものとしては「逸失利益の請求(損害賠償)」と「原状回復」があります。
逸失利益
賃貸物件で考えられている逸失利益とは、自殺が起きた事により今後の入居希望者に対して、その部屋で自殺があったことを伝えなくてはならいことから生じる空室期間や家賃を減額して募集する際の正規家賃との差額などの事を指します。
原状回復
自殺によって室内に付着した血痕や臭いなどを清掃する作業や使用できなくなった設備の交換などに掛かる費用のこと。
賃貸物件で自殺が起きた場合には貸主側から「家賃の○年分(逸失利益)」+「部屋の原状回復費○百万円」という請求が届くこととなります。
遺族や連帯保証人は逸失利益や原状回復を支払わなければいけないのか?
逸失利益
孤独死の場合と異なり自殺は入居者の故意によってその損害が発生していますので、基本的には裁判でもこの逸失利益は認められ、遺族や連帯保証人には支払い責任があるとされます。したがって、遺族は相続放棄をしない限りは責任を負い、連帯保証人は借主と同じ責任を負うとされています。
原状回復
原状回復に掛かる費用についても過去の判例上、自殺によって起きた損害については支払う義務があるとされています。しかし、自殺とは関係のない箇所のリフォームまでは認めないというのが判例の立場です。(浴室で亡くなったのに、別の部屋のエアコンの取替え工事をするなどは認められない。など)
遺族や連帯保証人はいくら払う必要があるのか?
支払い金額については法律で具体的には定まってはいません。したがって、その賃貸物件の間取りや立地、流動性などをもとに裁判所で判断することとなります。
自殺でよく見られる事例
賃貸物件での自殺の多くがワンルームで都心、交通の便が良く、入居者の入れ替えも頻繁で隣近所の付き合いがほとんど無いというケースです。
こういったケースでは1年間分の家賃(全額)と2年間分の減額した家賃との差額といった判断がされることがあります。
過去の事例
賃料72,000/月(管理費含む)の物件で自殺が起き、貸主側から借主側へ原状回復費約449万と逸失利益374万の計約823万を請求した事案。
この事案では裁判所は1年間は賃貸不能期間とし、2年間は賃料の半額でなけれは賃貸できない期間と判断して、逸失利益として約158万(貸主側からの請求の半分以下)を認めています。
また、この事案で認められた原状回復費は約9万であり、貸主側からの請求との差は440万にもなります。
自殺の場合の原状回復については、自殺が起きた箇所の修繕や交換などは認められる傾向にありますが、近年の判例では自殺によって生じた心理的瑕疵(血が部屋の各所に飛び散ったなど)については逸失利益で考える部分であり、原状回復で考えるべきではないとするものがあります。
つまり、室内で自殺が起きて一般の方が嫌悪するような状況であっても、遺族などが自分たちで清掃したり、専門の業者を入れてクリーニングを行い、血液の跡などを綺麗に除去しているなら原状回復の義務を果たしたと考えて、貸主側からの過大な原状回復は認めないということです。
賃貸物件で自殺が起きた場合の多くの貸主が逸失利益と共に室内のフルリフォームに必要な原状回復費を請求してきますが、必ずしもその請求全額が認められるという訳ではないということがここから判ります。
そもそも遺族に賠償義務があるのか?
遺族(相続人)に賠償義務があるのかどうかについて
相続人は故人の権利義務を承継する者ですので、故人が賃貸契約中に負った債務については原則負うこととなります。したがって、故人(借主)が自殺によって賃貸物件に損害を与えたならその賠償義務を相続人は負うこととなります。
相続放棄をすれば責任を負わない
上記のように相続人は故人の死後何もしなければ故人の権利義務をそのまま承継することとなります。ただし、自殺による多額の賠償義務を負うような場合は相続人が「相続放棄」の手続きを取ることによって故人が負っている賠償義務を負わなくてもよくなります。(相続放棄は相続発生後3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要)詳しくはこちら
連帯保証人は相続放棄でも賠償義務を免れない
相続放棄をすることによって、相続人は故人が負っていた権利義務を承継しなくてよくなりますが、賃貸契約の際に「連帯保証人」となられている場合は、たとえ「相続放棄」の手続きを取られたとしても連帯保証人としての義務は残りますので、結果自殺によって生じた責任は負うこととなります。(賃貸契約の他に消費者金融などからの借り入れがあるような場合は相続放棄をしておく意味はある)詳しくはこちら
連帯保証人は賃貸契約の契約年月日に注意
2020年4月1日以降の賃貸契約には改正民法が適用されることになり、連帯保証人には負担すべき上限金額設定されることになりました。上限金額は「極度額」として示されております。極度額は上限金額であり、必ずしもこの金額を支払うわけではなく、借主本人が死亡した時点での未払い賃料等を支払うこととなります。反対に言えば、借主本人が死亡した時点で未払いの賃料等がなければ、通常の退去と同様の原状回復費等を支払う義務しかないことになります。(自殺の場合は別)
保証会社を利用している場合
最近の賃貸借契約では家賃の保証会社と契約して連帯保証人をたてないケースも増えてきています。この場合は一般的に相続人は連帯保証人とはなっていない為、相続放棄によって自殺によって生じた賠償義務を免れることができます。
相続放棄の代行をご希望の方はこちら
賃貸借契約書に記載されている「緊急連絡先」は連帯保証人とは違う
入居希望者が親族に内緒で緊急連絡先に家族の名前を書いているケースは良くあります。緊急連絡先はもし万が一何かあった際の連絡先であり、連帯保証人のような責任を負うものではありません。自分の意思で署名、捺印していない場合は連帯保証人とはなりませんので、「連帯保証人」なのかそれとも「緊急連絡先」なのか、契約書の記載を良く確認しましょう。
遺族や連帯保証人は隣室や階下の損害も負わなければいけないのか?
賃貸物件で自殺が発生した場合、遺体の状況や自殺の態様によっては隣室や階下の住人に迷惑が掛かったり住人が退去してしまうことがあります。
その際に貸主側から「隣室や階下の次の入居者へ自殺があったことを伝えなくてはならず、入居者が決まらないことが予想されるので○年分の家賃を補償して欲しい」と言われるケースがあります。
この場合に遺族や連帯保証人は隣室や階下の部分についてまで逸失利益の賠償責任を負うのか?結論から言うと「原則負わなくて良い」となります。
この問題については過去の判例でも入居者が負っている善管注意義務は借りている部屋にだけ負っているものであり、その他の部屋の使用収益について善管注意義務を負うことはなく、また自殺があった部屋以外の部屋については告知義務があるとは言えず、告知義務が無い以上は損害も発生しないのだから、遺族や連帯保証人は自殺があった部屋以外の部屋について逸失利益の賠償責任を負う必要ないとされています。
貸主は自殺があった部屋以外の部屋について告知義務はあるのか?
一般的に自殺が起きた部屋とそれ以外の部屋では感じる嫌悪感の程度にかなりの違いがあるとされ、自殺が起きた部屋以外の部屋についてまで告知義務があるとはされていません。
事故物件に関する告知義務については、国土交通省が事故物件用のガイドラインを作成しています。国土交通省としての判断の指針にはなりますので参考にしてみてください。「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」国土交通省
事故物件であることを伝える告知義務はいつ消えるのか?
賃貸物件で自殺が起きた場合は貸主側としては次の入居者へ、その部屋で自殺があったことを伝えなくてはなりません。(告知義務)告知義務がある限りは空室期間や家賃の減額期間が伸びる可能性が出てきます。
では、この告知義務はいつまで負わなければいけないのか?
過去の判例では、自殺事故による嫌悪感も、もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え、一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り、新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間を生活すること自体により、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものと考えられる、、、、としています。
そして、当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り、当該賃借人が退去した後の新たな入居希望者に自殺事故があったことを告知する義務はないとしています。
簡単に言うなら、自殺発生後に新たな入居者が入り、その方が1ヶ月や3ヶ月といった極短い期間で退去したというような事情がない限りは、さらに次の入居者を募集する際には告知義務は免れるということです。
極短期間とは?
一律に期間が定められているわけではありませんが、一般的な賃貸借の契約期間である2年を普通に生活されて退去していったのなら告知義務はなくなると考えられいるようです。(但し、自殺事故が世間の耳目を集めるような状況なら事情は変わると思われます)
告知義務の期間が逸失利益の算定期間にも影響してくる
前述の逸失利益についても、この告知義務の期間の長さを考慮していると考えられており、告知義務のある期間が逸失利益の期間でもあると考えられていると思われます。
ですので、自殺で多い、都心部でワンルーム、隣近所との付き合いも無く、流動性の高いような物件では、だいたい2年間を自殺後の次の入居者が生活すれば告知義務はなくなると考えられ、その後は家賃も正規の家賃に戻せると考えているようですので、1年の賃貸不能期間+減額家賃2年間が逸失利益である、といった判例が出ているのではないでしょうか。
そう考えるなら、貸主側から請求される5年や10年といった逸失利益の請求はよほど世間の耳目を集めるような事件であったり、ファミリー物件で田舎といったような事情が無いと認められるケースは少ないのではと考えられます。
国土交通省による「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
令和3年に、国土交通省によって「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が策定され、どのような事故が心理的瑕疵(事故物件)になるのかや告知期間の目安について記載がありますのでこちらも参考にしてください。
告知期間についてガイドラインの内容を要約するなら、賃貸物件において自殺や他殺といった事故が発生した場合、その後概ね3年経過した場合は原則として次の借主に対して死亡事故について告知する必要はないとしています。
ただし、事件が大きくテレビで報道された場合等で社会的影響が大きく、広く近隣の記憶に残るような事件や事故だった場合は、告知期間が3年以上となる可能性もある点には注意が必要です。
建物価値の減少と考えるか将来賃料の得べかりし利益の喪失と考えるか
賃貸物件で自殺が起きると、貸主側から「自殺によって建物価値が減少したから○千万円を支払え」という請求のされ方をすることがあります。
これは自殺が起きたことによって本来建物自体が持っていた価値が自殺という嫌悪される事情が原因で市場価値が下がってしまたことを理由として請求されています。
この考え方は賃貸物権ではなく土地などの売買物件で使用されている考え方ですが、賃貸物件で自殺が起きた際もこの考え方で建物価値の下落分(本来売却したら売れただろう金額との差額分)を請求してくる貸主がいます。
この請求のされ方をしてしまうと上記で述べたような逸失利益(将来賃料の得べかりし利益の喪失)で請求される金額よりもはるかに高額な請求をされることとなります。
では、賃貸物件で自殺が起きてしまった場合はどちらの考え方を取ればいいのか?
過去の判例では、自殺が起きた際に「建物を売却する予定があったわけではないから、将来の得べかりし利益の喪失について検討すれば足りると考える。」としています。
つまり、建物を売却する予定(事故が発生した当時に具体的な売却の話しが進んでいる)があったなら、建物価値の減少とも考えられるが、そうではないなら将来的にもらえただろう賃料が失われたと考え、逸失利益で損害を算定すれば良いと判例では考えられています。
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詳しくは下記参考ページをご覧ください。
◆「賃貸物件で孤独死・自殺をされた方のご遺族や連帯保証人が取るべき方法」
◆「相続放棄手続きの代行業務について」
◆「自死・孤立死賃貸物件判例集」
◆「相続放棄をする前に」
◆「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを超解説」