原状回復にかかる判例【事例11】
[事例11]
賃借人に対して和室1室のクロス張替え費用及び不十分であった清掃費用の支払を命じた
事例
春日井簡易裁判所判決 平成9年6月5日
〔敷金17万4000円 追加支払5万8940円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yの父親との間で平成2年4月16日、春日井市内のマンションの賃貸借契約を締結した。当初契約期間は2年(以後1年毎の自動更新)、賃料月額6万4000円(契約終了時は7万4000円)、敷金17万4000円とされた。なお、賃貸人Yの父親が平成3年12月15日に死亡したため、賃貸人Yが賃貸人の地位を承継した。賃借人Xは、本件契約が平成8年3月23日に終了したので、同日、賃貸人Yに本件建物を明け渡した。
退去日に賃借人X、賃貸人Yの妻、宅建業者の三者の立会いにより、修繕箇所の点検・確認作業を行った。その結果、賃借人Xは、畳表、クロスの張替え費用の一部については、負担を認めたが、賃貸人Yは賃借人Xの本件建物の使用状況が通常の使用に伴って発生する自然的損耗をはるかに超えるものとし、修繕及び清掃を実施して、その費用を支出した。
賃借人Xは、賃貸借契約終了により、敷金17万4000円のうち補修費用6万2700円を控除した11万1300円及び前払賃料の日割り分1万9225円の返還を求めて提訴した。これに対し、賃貸人Yは、修繕費用及び清掃費用の合計30万7940円と敷金17万4000円及び賃料日割返還分1万9225円の合計19万3225円とを相殺した11万4715円の支払を求めて反訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)和室Bのクロスについては、賃借人Xの行為により毀損したものは全体の一部分である
からといって、その部分のみを修復したのでは、部屋全体が木に竹を継いだような結果
となり、結局部屋全体のクロスを張替え修復せざるをえないことになるが、それはとり
もなおさず賃借人Xの責によるものであるといわざるを得ない。
(2)和室Bの畳、和室A及び洗面所のクロスについては、賃貸人Yが主張するように通常の
使用にともなって発生する自然的損耗をはるかに超える事実を認めるに足りる証拠はな
く、和室Aの畳表替え、和室B等のクロスの張替えをする必要があるからといって、そ
れとのバランスから和室Bの畳表替えや和室A及び洗面台のクロスについてそれをも賃
借人Xに修繕義務を負わせるのは酷であり、不当であり、賃貸人Yの負担においてなす
べきである。
(3)賃貸人Yが清掃費用を支払うこととなったのは、賃借人Xの退去時の清掃の不十分さに
起因するものである。
(4)以上から、賃借人Xは賃貸人Yに対し、修繕費用21万2940円及び清掃費用2万円の合
計23万2940円の支払義務があり、したがって、賃借人Xは賃貸人Yに差し入れている
敷金及び日割計算による前払賃料の返還金の合計額19万3225円と対等額で相殺して
も、なお3万9715円を支払う義務があるとした。
なお、賃借人Xが控訴したが、その後、賃借人Xの負担を敷金相当額とする和解が成立した
模様。