原状回復にかかる判例【事例10】
[事例10]
原状回復義務ありとするためには義務負担の合理性、必然性が必要であり更に賃借人がそれを認識し又は義務負担の意思表示をしたことが必要とした事例
伏見簡易裁判所判決 平成9年2月25日
〔敷金21万6000円 返還6万6140円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成3年4月10日、賃貸人Yより本件建物を賃料7万2000円、敷金21万6000円(明け渡し後に返還)の約定で賃借した。本件賃貸借契約書には、賃借人は本件建物を明け渡す際には、賃貸人の検査を受け、その結果賃貸人が必要と認めた場合は、畳、障子、襖、壁等を賃貸開始時の原状に回復しなければならないとする条項があった。
賃借人Xは、平成7年8月31日本件建物を退去した。明け渡し時に賃貸人Y側からはBが立ち会い、Bは要修理箇所を書き出し、賃借人Xの負担すべき補修費用を36万8490円と算出し、賃借人Xに通知した。しかし、賃借人Xが賃貸人Yの通知した補修(畳表替え、襖・クロス・クッションフロア張替え及び室内清掃)を行わなかったので、賃貸人Yは賃借人Xの負担においてこの補修を代行した。
賃借人Xは、賃貸人Yが敷金を返還しないとして敷金21万6000円の支払を求めたのに対し、賃貸人Yは補修費用36万8490円と敷金の差額15万2490円の支払を求めて反訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)補修のうち、賃借人Xの責めに帰すべき事由によるものは、賃借人Xが冷蔵庫背面の排
熱を考慮しなかったことによる壁面の黒い帯、賃借人Xの過失による床のタバコの焦げ
跡、賃借人X退去の際、賃借人X側の者が家具を倒したことによる畳の凹み、以上3点
の補修費用14万9860円である。
(2)賃貸人Yの主張するように、退去にあたって、内装等を賃貸開始時の状態にする義務あ
りとするためには、原状回復費用という形で実質的賃料を追徴しなければならない合理
性、必然性が必要であり、さらに賃借人がその合理性、必然性を認識し又は認識しうべ
くして義務負担の意思表示をしたことが必要である。
(3)本件契約締結にあたり、原状回復義務の規定及びかかる義務負担の合理性、必然性につ
いての説明があったとは認められない本件においては、賃借人Xが賃貸人Y主張のよう
な原状回復義務を負担する意思を有していたとは認められず、また、そう認識すべき場
合でもなく、結局、その効力は認められない。
(4)以上から、賃借人Xの敷金返還請求のうち、賃借人Xの責めに帰すべき損傷の補修費用
を控除した6万6140円の支払を認め、賃貸人Yの反訴請求を棄却した。