原状回復にかかる判例【事例20】
[事例20]
過失による損傷修復費用のうち経年劣化を除いた部分が賃借人の負担すべき費用とされた
事例
東大阪簡易裁判所判決 平成15年1月14日
〔敷金27万9000円 返還21万9092円〕
1 事案の概要
(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成9年5月、賃貸人Xと月額賃料9万3000円で賃貸借契約を締結し、敷金として27万9000円を差し入れた。
本件賃貸借契約書には、「畳の表替え又は裏返し、障子又は襖の張替え、壁の塗替え又は張替え等は賃借人の負担とする。」旨の条項があった。
賃借人Yは、平成14年1月、本件賃貸借契約の解約を申し出、同年2月、本件物件を明け渡した。ところが、賃借人Yの退去後の本件物件には、壁クロスに多数の落書き・破損、ビス穴等があり、また、床カーペットには多数の汚損があった(貸主Xの主張)ことから、賃貸人Xは、その原状回復の費用として35万6482円を要するとして、延滞賃料等5万6588円との合計額を敷金返還債務と対当額で相殺すると差し引き13万4070円が不足するとして、賃借人Yに支払を求めたが、これを拒まれたため、提訴に及んだ。
これに対し、賃借人Yは、反訴を提訴し、賃借人Yには本物件をリフォームして新築時と同様になる様にクロスやカーペットの張替え、畳の表替えなどをすべき義務はなく、賃借人Yの負担すべき費用は、壁クロスのうち、子供が落書きした11㎡部分のみである。そして、入居時新品であったクロスでも、57か月経過後の退去時には、残存価額は28.75%になるから、クロスの㎡単価1050円に11㎡を乗じた後の28.75%である3320円が賃借人Yの負担すべき費用であると主張して、賃貸人Xに対し、敷金から賃借人Yの負担部分及び延滞賃料等を控除した残額21万9092円の返還を求めた。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人Yの自認する過失(子供の落書き)による損害及び争いのない延滞賃料等を除く
と、賃貸人Xが原状回復費用として請求する金額は、経年変化及び通常使用によって生
ずる減価の範囲のものと認められる。
(2)以上から、賃貸人Xの請求は理由がなく、賃借人Yの請求には理由があるとして賃借人
Yの請求を全面的に認めた。