原状回復にかかる判例【事例23】
[事例23]
本件敷引特約は消費者契約法10条により無効であり、また、賃借人は見えるところの結露
は拭いており、カビの発生に賃借人の過失はないとされた事例
枚方簡易裁判所判決 平成17年10月14日
〔敷金25万円 返還25万円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xと賃貸人Yらは、平成16年3月28日本件建物につき、期間1年、賃料月額金7万8000円で賃貸借契約を締結し、賃借人Xは賃貸人Yらに対し、保証金(敷金)25万円を交付した。
本件賃貸借契約には敷引金25万円の記載があった。
本件賃貸借契約は、賃借人Xの申し入れにより、平成16年12月13日をもって中途解約された。
賃借人Xは、賃貸人Yらには債務不履行があるとして、敷金25万円の返還を求めて訴えを提起した。これに対し、賃貸人Yらは、1か月分の解約予告金が未払いであること、本件建物には賃借人Xの過失によるカビ・異臭が発生しており、その損害金があるとして、賃借人Xに対して反訴を提起した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件敷引特約は、民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定であり、消費者の
義務を加重するものである。また、本件敷引特約は賃貸人の有利な地位に基づき、一方
的に賃借人に不利な特約として締結されたものであり、民法1条2項に規定する基本原
則に反しており、消費者の利益を一方的に害するものであることは明らかである。よっ
て、本件敷引特約は消費者契約法10条の要件を充たしており、無効である。
(2)本件建物のカビは、結露が主たる原因である。本件建物の設備を検討すると、本件建物
の結露の発生は建物の構造上の問題と認められる。
(3)結露の発生が建物の構造上の問題と認められた場合、結露の発生に気付いていた賃借人
Xにカビが発生するについて過失があったかについては、本件では、目に見えるところ
にはカビが残っていないため、賃借人Xは、結露に気付いたときにはその都度拭いてい
たと認められる。したがって、賃借人Xは、共働き家庭の日常生活を送っていたのであ
り、カビの発生につき賃借人Xに過失があったとは認められない。
(4)本件建物のカビの発生は建物の構造上の問題であり、そこに住む者にとっては、健康
上、財産上の深刻な問題であり、賃貸人は最善の方法を尽くすべきである。賃貸人は、
賃借人が快適な生活を送れるように賃貸した建物を維持すべき義務があると考えられる
ので、それが履行されない以上、賃貸人の債務不履行と解すべきである。
(5)鍵交換代は、賃借人Xには負担義務のない費用である。
(6)以上から、賃借人Xが負担すべき費用はないとして、賃貸人Yに対して敷金の返還を命
じた。