原状回復にかかる判例【事例28】
[事例28]
敷引特約が、消費者契約法に反し無効とされた事例
奈良地方裁判所判決 平成19年11月9日
〔敷金40万円 返還26万2729円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yと平成14年7月、月額賃料4万5000円で賃貸借契約を締結し、敷金として40万円を差入れた。
本件契約書には、敷金について、明け渡しの1か月後に20万円を差引いて返還するとの特約が付された。
賃借人Xは、平成17年8月15日に本件物件を明け渡したが敷引特約が消費者契約法に違反し無効であるとして、敷金40万円から毀損したことを認めている部分を差引いた39万8425円の返還を求めた。
これに対して、賃貸人Yは敷金以上の原状回復費用を要したとして、その費用相当額から敷金(敷引部分を除く)を控除した46万8745円の損害賠償の反訴請求をして争った。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)敷引特約について、賃貸借契約においては、賃借人に債務不履行があるような場合を除
き、賃借人が賃料以外の金銭の支払を負担することは法律上予定されておらず、奈良県
を含む関西地方において敷引特約が事実たる慣習として成立していることを認めるに足
りる証拠もなく、民法の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者であ
る賃借人の権利を制限するものというべきである。自然損耗についての必要費を賃料に
より賃借人から回収しながら、さらに敷引特約によりこれを回収することは、賃借人に
二重の負担を課すことになり、同特約が敷金の50%を控除するもので、賃借人Xに大
きな負担を強いるものであることを指摘して、信義則に反して消費者の利益を一方的に
害するものであると判断せざるを得ないとして消費者契約法10条に違反し無効である
とした。
(2)賃貸人Yの損害賠償請求については、賃借人Xの通常の使用を超える使用部分につい
て、経過年数を考慮した範囲で敷金から13万735円(消費税別)を差引くことを認め
た。
(3)以上から、賃借人Xは敷金の一部が認容され、賃貸人Yの反訴請求は棄却された。