原状回復にかかる判例【事例29】
[事例29]
保証金解約引特約が消費者契約法10条により無効とされた事例
京都簡易裁判所判決 平成20年8月27日
〔敷金50万円 返還32万177円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yと平成14年6月、月額賃料10万円で賃貸借契約を締結し、保証金50万円を差入れた。
本件契約書には、保証金解約引として40万円を保証金から差引く旨の特約が付された。
本件契約は平成16年と18年に更新された後、平成19年3月31日に賃借人Xが賃貸人Yに本物件を明け渡し、保証金50万円の請求をしたが、賃貸人Yは、本件特約が付されていること等から保証金の返還を拒んだため、賃借人Xは、本件特約が消費者契約法に違反し無効であるとして保証金50万円の返還支払を求めて提訴した。
これに対して、賃貸人Yは部屋一つを貸しているだけで事業者でなはなく消費者契約法が適用されない、解約引は京都での慣習である等として特約が有効であること、契約から5年後の消費者契約法の主張が権利の濫用である等と争った。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)個人がその所有不動産を継続して賃貸することは「事業」にあたり、その個人が不動産
業者ではなく、一つの部屋を貸す場合であっても同様であり、消費者契約法にいう「事
業者」に該当する。
(2)保証金解約引特約については、保証金50万円の内40万円については債務不履行がなく
とも返還しないとするものであるから、民法の規定に比べて消費者の権利を制限し、同
法1条2項が定める信義則に反する。解約引率8割が京都の慣習と認めるに足りる証拠は
ない。
(3)ベランダは本件物件の一部分であり、玄関ドアに付けられたポスト、浴槽、浴槽のフ
タ、排水口のチェーン、襖の桟、クッションフロア及びじゅうたんの修繕費用、購入費
用についてはその経過年数を考慮すべきである。4年10か月の入居期間を考慮すると、
修繕費用等については見積額の1割を負担させるのが相当である。
(4)以上から、賃借人Xの善管注意義務違反として自然損耗以外のものについてだけ保証金
から差引くことを認め、保証金解約引特約の効力は否定した。