原状回復にかかる判例【事例32】
[事例32]
庭付き一戸建て住宅につき、草取り及び松枯れについての善管注意義務違反があったとし
て、賃借人の費用負担を認めた事例
東京簡易裁判所判決 平成21年5月8日
〔敷金12万円 返還6万円〕
1 事案の概要
(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、平成16年8月8日、賃借人Yとの間で、庭付き一戸建て住宅(敷地90坪、建物 109.3㎡)について、賃貸期間2年間、賃料12万円、敷金12万円、礼金12万円という条件で賃貸借契約を締結した。
賃貸借契約は平成19年6月11日限りで終了し、賃借人Yが賃貸人Xに明け渡した。
賃貸人Xは、本件敷地である庭の植栽は、被告入居時は十分に手入れがされていたのに、賃借人Yの管理不十分により荒れ果てており、特に門かぶりの松は枯れていたとして、賃借人Yに対して庭の修復費用として48万8350円(高木剪定作業等費用20万5800円、雑草・除草及び刈取り処分費用3万2550円、枯れた松と同程度の松の植替え費用25万円)から敷金12万円を充当・控除した残額36万8350円の費用の支払いを求めて提訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件のような庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては、庭及びその植栽等も建物と
一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するとい
うべきであり、賃借人Yら(Y及びYの妻)は本件賃貸物件の敷地・庭の植栽について
も、信義則上、一定の善管注意義務を負うと解するのが相当である。
(2)庭の植栽の剪定をしなかったことについては、敷地・庭の植栽の管理方法についての具
体的な合意・約定がないこと、仲介業者から基本的には植栽は刈らないようにとの説明
を受けていたこと、植栽の剪定・養生にはこれに関する一定の知識経験が必要と解され
るが、賃借人Yらには知識経験はほとんどなかったこと等に照らせば、剪定をしなかっ
たことを賃借人Yらの善管注意義務違反とみることはできない。
(3)草取りの状況については、賃借人Yらの入居前と退去後の庭の草の状況を比較すると、
退去後は明らかに草が生い茂っている状態であり、一般的な庭の管理として行われるべ
き定期的な草取りが適切に行われていなかったものと推認されることから、賃借人Yら
の善管注意義務違反とみるのが相当である。
(4)松枯れについては、松枯れの原因は不明であるが、松の変化の状態に気付き、これを賃
貸人Xに知らせて対応策を講じる機会を与えるべき義務があったと解するのが相当であ
り、これを怠った賃借人Yらには善管注意義務違反があったと認めるのが相当である。
(5)以上から、本件賃貸物件が近隣の賃料相場に比べて安い物件であることも併せ考慮し、
賃借人Yは6万円を庭の修復費用の一部として負担するのが相当であるとした。