原状回復にかかる判例【事例33】
[事例33]
賃借人がハウスクリーニング代を負担するとの特約を有効と認めた事例
東京地方裁判所判決 平成21年5月21日
〔敷金27万円 返還12万6570円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xに対し平成9年9月27日、本件建物(木造モルタル2階建て一戸建住宅)を賃貸し、賃借人Xは賃貸人Yに対し、同日、敷金27万円を交付した。その後平成17年10月6日、本件賃貸借契約は、賃料月額13万円、期間2年(平成17年10月1日から平成19年9月30日まで)、明け渡しをするときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担するとの特約(本件特約)を内容として更新された。
本件賃貸借契約の終了にあたり、賃借人Xは、賃貸借契約は平成19年4月30日に終了し明け渡しを行ったとして、賃貸人Yに対して敷金27万円の返還を求めた。賃貸人Yは、本件特約に基づくクリーニング代、賃借人Xの通常の使用を超える損耗の原状回復のための内装工事費、内装工事終了時までの2か月分の賃料等が敷金から控除されると争った。
賃借人Xが敷金の支払を求める支払督促を申し立てたのに対し、賃貸人Yが異議を申し立てたため訴訟に移行し、原審が賃貸人Yに対して5万372円の支払い等を命じたところ、双方が控訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)最高裁判所平成17年12月16日判決(事例24参照)を引いた上で、
(2)ハウスクリーニング費用を賃借人の負担とする本件特約は、本件賃貸借契約の更新の際
に作成された契約書に明記されており、その内容も、賃借人が建物を明け渡すときは、
専門業者のハウスクリーニング代を負担する旨が一義的に明らかといえる。したがっ
て、ハウスクリーニング代は、賃借人Xが負担すべきである。
(3)本件特約以外に賃借人の原状回復義務についての特約は存在しないから、賃借人Xは、
故意・過失によると認められる通常損耗を超える損耗(特別損耗)についてのみ補修の
義務を負う。
(4)和室壁面のタバコのヤニによる汚損でクリーニング等によっても除去できない程度に至
っている和室壁面、大きく破れている箇所が認められる和室の障子、トイレの扉やや下
方の汚れ及び、和室の畳の内2枚の黄ばみと黒いシミと茶色のシミは、通常損耗を超え
たものと認められる。したがって、和室2室のクロスの張替え費用、和室障子の張替え
費用、建具ダイノックシート張替え費用、畳2枚の張替え費用は、本件敷金に充当され
るべきである。その他の内装工事費は、本件敷金に充当されるべきものとは認められな
い。
(5)本件における通常損耗を超えた損耗の補修は、通常損耗の補修と同時に行い得るもので
あるから、平成19年4月30日の賃借人Xの明け渡し時以後、その補修期間に相当する
賃料相当損害金を敷金に充当すべき法的根拠はない。
(6)以上から、敷金のうちクリーニング代6万3000円と内装工事費8万430円を差し引いた
12万6570円の支払いを賃貸人Yに対して命じた。