原状回復にかかる判例【事例39】
[事例39]
通常の使用によって生じた損耗とは言えないとして未払使用料等含めて保証金の返還金額は
ないとされた事例
東京地方裁判所判決 平成22年2月2日
〔敷金(保証金)31万4400円 返還0円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Y(大田区)は、平成10年4月27日、賃借人Xに対し、同年5月6日から使用期限の定めなく使用料月額15万7200円として大田区民住宅条例に基づき使用許可をし、保証金として31万4400円を賃借人Xは賃貸人Yに交付した。
本件使用許可は平成21年4月26日に終了し、同日賃借人Xは賃貸人Yに対し本件建物を明け渡した。
賃借人Xが本件建物を返還した際、賃借人Xには未納の使用料及び共益費13万9500円があり、同条例25条2項に基づく賠償金として29万5020円の支払義務が発生するところ、本件保証金は全額について控除されて残額は発生しないとして賃貸人Yが保証金を返還しなかったことから、賃借人Xは賃貸人Y主張の賠償金は11年の入居期間で社会通念上通常の使用により発生した相応の損耗であるから賠償責任は発生しないとして保証金31万4400円の返還を求めて提訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人Xは本件建物を明け渡した際、本件建物には以下の損傷があった。
ア 7階(上階)洋室のバルコニー出入口前のフローリング材剥がれ 18万4000円
イ 6階(下階)襖(大)1枚 破損と剥がれ1枚・穴1枚・しみの合計 1万3800円
ウ 7階(上階)台所・洗面金具1個(浄水器が取り付けられたまま)3万5200円
エ 同場所排水溝菊割ゴム紛失 1650円
オ 6階(下階)和室及び7階(上階)和室のクーラーキャップ合計3個 1万1550円
カ 6階(下階)和室のシール剥がし跡同玄関部分のシール剥がし跡7階窓枠(サッシ)部分
に取り付けられたフック 5か所6階(下階)和室窓枠部分に取り付けられたフック1か所
と壁に取り付けられたフック1か所 6階(下階)玄関脇壁に取り付けられたフック1か所
7階(上階)外壁に取り付けられたフック8か所 合計1万9800円
キ 6階(下階)トイレ配管 1万1000円
ク 7階(上階)バルコニー間仕切り固定金具 1万1000円
ケ 鍵4個 5600円
コ 鍵(エレベータートランク) 1420円
合計29万5020円
賃借人Xはいずれも11年の入居期間で社会通念上通常の使用により発生した相応の損耗であるから賠償責任は発生しないと主張するが証拠に照らせばいずれも通常の使用によって生じたものとは言えないから賃借人X主張は採用できない。
(2)賃借人Xは賃料13万円及び共益費9500円を払っておらず、未納使用料、共益費及び賠
償金合計額は43万4520円で、賃借人Xの交付した保証金31万4400円を超過している
ので賃貸人Yが賃借人Xに対して還付すべき保証金はないことになる。
(3)以上から、賃借人Xの控訴を棄却した。