原状回復にかかる判例【事例4】
[事例4]
通常の損耗に関する費用は約定された敷引金をもって当てると解するのが相当であるとされた
事例
大阪簡易裁判所判決 平成6年10月12日
〔敷金(保証金)170万円 返還127万5000円(敷引金の全額)〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成2年8月、賃貸人Yと本件建物の賃貸借契約を締結した。賃借人Xは同日賃貸人Yに対し、契約に付帯して保証金170万円を預託した。同保証金については、契約期間2年未満の場合、30%、2年以上の場合、25%をそれぞれ差し引いた残額を返還する旨の約定が付されていた。
賃借人Xはその後本件契約を解約し、平成5年7月本件建物を明け渡した。契約期間及び約定によれば、賃貸人Yは、前記保証金170万円から25%を差し引いた127万5000円を賃借人Xに返還すべきところ、賃借人Xの使用によって甚だしく汚損され、その原状回復のために、クロス、障子及び襖の張替え、床畳工事並びにクリーニング費用の合計約45万円を要したとして、81万円余を返還したのみであった。賃借人Xは、賃貸人Yが支出した金額程度の原状回復費用は敷引分をもって充てるべきであるとして、残額である46万円余の支払を求めた。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃貸人Y主張の損害項目のうち、天井クロスの照明器具取付け跡、畳の汚損について
は、賃借人の通常の使用により自然に生ずる程度の汚れであったことが認められる。
(2)敷引の約定については、賃借人の通常の使用により賃借物に自然に生じる程度の汚損、
即ち通常の汚損に関する費用は一次的には敷引金をもって充てるとの約定を含んでいる
と解するのが相当であり、右損傷の修復に要する費用は数万円程度を超えるものではな
く、敷引金をもって充てるべきである。
(3)その他の損害については、汚損の箇所や範囲、修復に要した費用等についてこれを詳ら
かになしがたく、他にこれを是認するに足りる証拠はなく、賃貸人Yの主張は採用しが
たいとして、賃借人Xの請求を全面的に認めた。