原状回復にかかる判例【事例31】
[事例31]
賃借人が負担すべき特別損耗の修繕費用につき、減価分を考慮して算定した事例
神戸地方裁判所尼崎支部判決 平成21年1月21日
〔敷金31万1000円 返還請求28万3368円のうち、25万3298円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yとの間で平成12年2月1日、本件住宅につき平成12年2月1日から平成13年3月31日まで(期間満了日の6か月前までに双方の異議がなければ、家賃及び敷金を除き、同一条件でさらに1年間延長されたものとし、以後この例による)、賃料月額11万7000円、共益費月額8000円、敷金31万1000円とする賃貸借契約を締結し、賃貸人Yに対して敷金を交付した。
賃借人Xは、平成19年6月ころ、賃貸人Yに対し、本件賃貸借契約の解約を通知し、同年7月3日、本件住宅を明け渡した。賃借人Xと賃貸人Yは、7月1日から3日までの日割賃料5992円を敷金から控除することを合意した。賃貸人Yは本件住宅の住宅復旧費(タバコのヤニの付着によるクロスの張替え、床の削れ補修)28万3368円についても敷金から控除し、賃借人Xに対して敷金残金として6万1640円を返還した。これに対して、賃借人Xは住宅復旧費として控除された28万3368円分の敷金の返還を求めて提訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人は、通常損耗について原状回復義務を負うとの特約がない限り、特別損耗(「通
常損耗」を超える損耗)についてのみ原状回復義務を負うと解するのが相当である。
(2)賃借人が賃貸借契約終了時に賃借物件に生じた特別損耗を除去するための補修を行った
結果、補修方法が同一であるため通常損耗をも回復することとなる場合、当該補修は、
本来賃貸人において負担すべき通常損耗に対する補修をも含むこととなるから、賃借人
は、特別損耗に対する補修金額として、補修金額全体から当該補修によって回復した通
常損耗による減価分を控除した残額のみ負担すると解すべきである。
(3)本件クロスの変色は喫煙によるタバコのヤニが付着したことが主たる原因であり、クロ
スの洗浄によっては除去できない特別損耗である。本件変色の補修はクロスの全面張替
えによるしかないが、賃借人Xは補修金額としてクロスの張替え費用から本件クロスの
通常損耗による減価分(減価割合90%)を控除した残額を負担することとなる。
(4)床の削れが特別損耗であることは争いがなく、その補修方法はタッチアップによる方法
が相当である。この補修では、賃借人Xによる毀損部分(特別損耗)のみの補修となる
ため、賃借人Xがその全額を負担すべきである。
(5)本件賃貸借契約上、本件住宅内での喫煙は禁止されていないから、賃借人夫婦が本件住
宅内で喫煙したこと自体は善管注意義務違反とはならない。タバコのヤニの付着につい
ては管理について善管注意義務違反が認められる余地があるものの、これによって賃貸
人に生じる損害は、上記の賃借人が負担すべき補修金額と同額であるというべきであ
る。
(6)以上から、敷金残金25万3298円の返還を認めた。