原状回復にかかる判例【事例36】
[事例36]
清掃費用負担特約並びに鍵交換費用負担特約について消費者契約法に違反しないとされた
事例
東京地方裁判所判決 平成21年9月18日
第一審・武蔵野簡易裁判所判決
〔敷金5万6000円 返還1万7750円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xに対して平成19年5月27日、本件貸室を契約期間2年、賃料月額5万 6000円(他に共益費2000円)、敷金5万6000円とし、賃借人Xは賃貸人Yに同日敷金を
支払うと共に、本件貸室の鍵交換費用として1万2600円を支払った。
本件賃貸借契約は平成20年2月17日に終了し、賃借人Xは賃貸人Yに対して本件貸室を明
け渡したが、賃貸人Yがハウスクリーニング費用2万6250円を負担する特約(清掃費用負
担特約)に基づいて敷金から2万6250円を控除し、また、賃貸人Yが入居時に貸室の鍵交
換費用1万2600円を負担する旨の特約(鍵交換費用負担特約)に基づいて1万2600円を取
得したことから、賃借人Xはこの2つの特約は有効に成立していないか、成立していたとし
ても消費者契約法10条により無効である、仮に無効でないとしても消費者契約法4条2項に
より取り消されたと主張してこれらの返還を求めて提訴した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)清掃費用負担特約は、合意されていないとして2万6250円の敷金の返還を認める。
(2)鍵交換費用負担特約については、成立するとして請求を棄却した。
これに対して賃貸人Yが控訴し、これに対して裁判所は、
(1)清掃費用負担特約については、契約書等には賃借人が契約終了時にハウスクリーニング
費用2万5000円(消費税別)を賃貸人に支払う旨の記載がいずれにも存在すること、
賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書には費用負担の一般原則の説明の後に、「例外と
しての特約について」と題して、ハウスクリーニング費用として2万5000円(消費税
別)を賃借人が支払うことが説明されていること、仲介業者が口頭で説明したことは認
められること等からすれば、料金2万5000円(消費税別)程度の専門業者による清掃
を行うことが明らかであるから、契約終了時に本件貸室の汚損の有無及び程度を問わ
ず、賃貸人Yが専門業者による清掃を実施し、賃借人Xがその費用として2万5000円
(消費税別)を負担する旨の特約は明確に合意されているものということができ、特
約の合意は成立している。
当該特約は賃借人にとって不利益な面があることは否定できないが、特約は明確に合意
されていること、賃借人にとって退去時に通常の清掃を免れることができる面もあるこ
と、その金額も賃料月額5万6000円の半額以下であること、本件貸室の専門業者によ
る清掃費用として相応な範囲のものであることからすれば当該特約が賃借人の利益を一
方的に害するとまで言うことはできないので、当該特約は消費者契約法10条違反であ
るとはいえない。
同様に、賃貸人の代理人である業者が賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明の際に当該特
約について「清掃費用は賃貸人が本来負担するものであるが、賃借人に負担をお願いす
るために特約として記載している」と説明したことが認められることから、消費者契約
法4条2項違反の行為もないので、クリーニング費用についての賃借人Xの請求は認め
られない。
(2)鍵交換費用負担特約については、宣伝用チラシ、重要事項説明書に記載されているこ
と、契約締結時に仲介業者が口頭で説明していること、賃借人Xは鍵交換費用を含めて
契約金を支払っていることからすれば鍵交換費用を負担する旨の特約が明確に合意され
ているものということができ、要素の錯誤があったと認めるに足りる証拠もない。
そして、鍵交換費用負担特約は特約そのものが明確に合意されていること、鍵を交換す
ることは前借主の鍵を利用した侵入の防止ができる等賃借人Xの防犯に資するものであ
ること、鍵交換費用の金額も1万2600円であって相応の範囲のものであることからす
れば、賃借人にとって一方的に不利益なものであるということはできないから当該特約
は消費者契約法10条違反ではない。
また鍵交換費用について、賃貸人が本件ガイドラインに沿った内容と説明したと認める
に足りる証拠もなく、消費者契約法4条2項違反でもない。
(3)以上から、原判決における賃貸人Y敗訴部分を取り消した上で賃借人Xの請求を棄却し
た。