原状回復にかかる判例【事例37】
[事例37]
更新料特約は消費者契約法10条並びに民法第1条2項に違反せず有効であるとした上で通常
損耗の範囲について判断した事例
東京地方裁判所判決 平成21年11月13日
〔敷金66万4000円 返還64万7701円〕
1 事案の概要
(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、訴外Aとの間で平成16年2月13日に、本件建物を月額賃料33万2000円、敷金66万4000円、契約期間2年で賃貸借契約を締結し、同日、駐車場を月額3万円、トランクルームを月額1万円で同じ期間で契約を締結し、その後平成18年1月16日に本件賃貸借契約、駐車場契約並びにトランクルーム契約は更新された。
訴外Aは賃貸人たる地位を賃貸人Xに移転し、その後平成20年2月14日に賃貸人Xと賃借人Y間で更新がなされ、更新料33万2000円が賃借人Yから賃貸人Xに対して支払われた。賃借人Yは賃料を滞納し、平成21年2月からは一切支払わないことから、賃貸人Xが本件賃貸借契約等を解除する旨の意思表示をして未払賃料並びに遅延損害金を求めて提訴した。
なお賃借人Yは同年7月27日に本件建物を明け渡し、同年5月13日に37万2000円を支払うと共に、支払済の更新料33万2000円の不当利得返還請求権をもって、また敷金返還債権をもって賃貸人Xの賃借人Yに対する債権と対等額において相殺するとの意思表示を行った。また、賃借人Yは訴訟において、賃貸人Xの無催告解除の有効性、本件賃貸借契約における更新料特約は消費者契約法10条により無効であること、並びに賃貸人Xが請求した以下の原状回復費用について争った。
ア 洗面所 給湯室扉クロス張替え 2.2㎡ 2200円(剥がれ)
イ トイレ 壁クロス張替え(面) 4.3㎡ 5160円(剥がれ)
ウ 和室 障子張替え(巾広サイズ) 2枚 9000円(破れ)
エ LD 網戸張替え 1枚 3000円(破れ)
オ LD 照明引掛シーリング取付け 1箇所 2500円(紛失〈配線がむき出し〉)
カ LD カーペットクリーニング 82.2㎡ 8万2200円
キ 全体 ハウスクリーニング 124.67㎡ 12万4670円
ク クロス貼替貸主負担分(6.5㎡×1.25%×65ヶ月×@1.2)
▲6337円
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)無催告解除については、有効に解除されたというべきである。
(2)更新料特約は消費者契約法10条の「民法1条2項に規定する基本原則(信義則)」に反
して諸消費者である賃借人Yの利益を法的に害するとまではいえず有効である。
(3)賃借人Yが負担すべき原状回復費用については、いわゆる通常損耗については賃借人が
その補修費を負担することになり通常損耗の範囲を契約書の条項に具体的に明記されて
いるか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内
容としたものが認められるなど、特約が明確に合意されていない限り賃借人はその補修
費を負担しないというべきであるところ(事例24、最高裁平成17年12月16日判決参
照)、上記カ(カーペットクリーニング)及びキ(ハウスクリーニング)の費用はこれ
らが通常損耗以上の損耗に対する原状回復費用であると認めるに足りる証拠がなく、か
つ賃貸人Xと賃借人Yの間では通常損耗補償特約が明確に合意されていることが認めら
れるに足りる証拠もないから、これらの費用は次の入居者を確保するための費用として
貸主である原告が負担すべきである。
したがって賃借人Yが負担すべき原状回復費用は上記アないしオ、クの費用に消費税相
当額を加えた1万6299円にとどまる。
(4)以上から、未払賃料等に原状回復費用として1万6299円を加えた金額に対して敷金返
還債権66万4000円をもって相殺した金額についての請求を認めた。