原状回復にかかる判例【事例9】
[事例9]
賃借人の手入れにも問題があったとして、カビの汚れについて賃借人にも2割程度の負担をすべきとした事例
横浜地方裁判所判決 平成8年3月25日
一審・保土ヶ谷簡易裁判所判決 平成7年1月17日
〔敷金21万4000円 返還18万4000円〕
1 事案の概要
(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成元年7月2日、賃貸人Yとの間で横浜市内のマンション(新築物件)の賃貸借契約を締結した。契約期間は2年間、賃料月額9万7000円、敷金19万4000円とし、賃借人Xは同日賃貸人Yに敷金を交付した。平成3年7月2日の契約更新時に賃料が1万円増額され、その結果敷金も2万円増額されたので、賃借人Xは同日賃貸人Yに敷金を追加交付した。平成6年3月31日賃貸借契約は合意解除され、同日賃借人Xはマンションを賃貸人Yに明け渡した。
賃貸人Yは、賃借人Xが通常の使用による損害以上に損害を与えたため、以下の補修工事を 実施し、46万9474円を出捐し、敷金を充当したので、敷金は返還できないと主張したことから、賃借人Xが、交付済みの敷金21万4000円の返還を求めて提訴した。
・工事内容
イ 畳六畳の裏返し
ロ 洋間カーペットの取替え並びに洋間の壁・天井、食堂、台所、洗面所、トイレ、玄関
の壁・天井の張替え
ハ 網入り熱線ガラス二面張替え
二 トイレ備え付けタオル掛けの取付け
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)畳は、入居者が替わらなければ取り替える必要がない程度の状態であったから、その程
度の損耗は通常の使用によって生ずる損害と解すべきである。
(2)洋間カーペット、洋間の壁・天井等は、カビによる染みがあったために取り替えたもの
であるが、本件建物が新築であったために壁等に多量の水分が含有されていたことは経
験則上認められ、また、居住者がことさらにカビを多発せしめるということは到底考え
られないし、また賃借人Xがそのような原因を作出したとは認められない。
(3)網入りガラスは、熱膨張により破損しやすいところ、賃借人Xが破損に何らかの寄与を
したとは認められない。
(4)トイレのタオル掛けの破損も、石膏ボードに取り付けられた場合、その材質上、取れ易
いことは経験則上明らかである。
(5)以上から、各損害はいすれも通常の使用により生ずる損害、損耗であり、賃貸人Yが負
担すべきとして、賃借人Xの請求を全面的に認めた。
賃貸人Yが一審判決を不服として横浜地方裁判所に控訴した。
これに対して裁判所は、
(1)洋間カーペット、洋間の壁、洗面所、トイレ及び玄関の天井及び壁に発生したカビにつ
いて、相当の程度・範囲に及んでいたこと、本件建物の修繕工事をした業者が同一建物
内の他の建物を修繕したが、そこには本件建物のような程度のカビは発生していなかっ
たことから、本件建物が新築でカビが発生しやすい状態であったことを考慮しても、賃
借人Xが通常の態様で使用したことから当然に生じた結果ということはできず、賃借人
Xの管理、すなわちカビが発生した後の手入れにも問題があったといわざるを得ない。
(2)カビの汚れについては、賃借人Xにも2割程度責任があり、「故意、過失により建物
を損傷した有責当事者が損害賠償義務を負う」旨の契約条項により、賃借人Xは本件
カーペット等の修繕費15万5200円のうち、3万円を負担すべきである。
(3)以上から、原判決(保土ヶ谷簡易裁判所)を変更し、賃借人Xが請求できるのは、敷金
21万4000円から3万円を差し引いた18万4000円とした。