原状回復にかかる判例【事例13】
[事例13]
特約条項に規定のないクリーニング費用等の賃借人による負担が認められなかった事例
仙台簡易裁判所判決 平成12年3月2日
〔敷金16万5000円 返還5万9955円〕
1 事案の概要
(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成9年11月、賃貸人Xと賃貸借契約を締結し、敷金として16万5000円を差し入れた。
賃借人Yは、平成11年5月、賃貸人Xと本件契約を合意解除し、本物件を賃貸人Xに明け渡したが、賃貸人Xは賃借人Yに対し、原状回復費用として、
①畳修理代5万7330円
②襖 張替え代3万3600円
③フロア張替え代7万6062円
④室内クリーニング代3万6750円
⑤水道未払費用1万4115円
の合計21万7857円の支払を求め、敷金との差額5万2857円を請求し提訴した。
これに対し賃借人Yは、①、②及び⑤の合計10万5045円の支払は認めるが、その他の費用負担については、本件契約書の費用負担の特約に規定されておらず、説明も受けていない。本件貸室の使用は正常でかつ善管注意をもってなし、通常の使用によって生ずる損耗、汚損を超えるものではないから、支払義務はないと主張した。
2 判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件契約の賃借人の費用負担特約条項には、フロアの張替え及びクリーニングの費用
負担の規定はない。
(2)賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、
法律上、社会通念上当然発生する義務とは趣を異にする新たな義務を負担させるという
べきであり、これを負担させるためには、特に、賃借人が義務を認識し又は認識し得べ
くして義務の負担の意思表示をしたことが必要であるが、本件においてはこれを認める
に足りる証拠はない。
(3)本件貸室において、賃借人Yが、その居住期間中に通常の使用方法によらず生じさせた
損耗、汚損があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、賃借人Yには、フロア
の張替え及び室内クリーニング費用の支払義務はない。
(4)以上から、賃借人Yの主張を全面的に認めた。
✻同様の趣旨の判例として、平成8年11月28日仙台簡易裁判所判決がある。