名古屋の遺品整理・死後事務専門の第八ブログ
2018.06.22
事故物件で貸主から提示された合意書、念書の注意点
おはようございます。名古屋の遺品整理・特殊清掃専門第八行政書士事務所の谷です。今日の名古屋は梅雨の晴れ間なのかいい天気です。洗濯が捗りますね。
さてさて、気温が高くなるにつれてだんだんと賃貸物件における孤独死の相談が増えてきています。本格的な夏が来る前に一般的に事故物件と呼ばれる部屋の退去について遺品整理専門の行政書士として注意点を書いておこうかと思います。
賃貸物件で孤独死や自殺などが起きた場合にご家族や遺族から多い相談として、「相続放棄をするつもりだけでとどこまで手を付けていいのかわからない」というものです。(相続放棄と遺品整理の注意点については「相続放棄をする前に」をご確認ください。)
今回は賃貸物件の貸主側(大家・管理会社)と借主側(相続人)でおきがちな問題点での注意点を書きたいと思います。賃貸物件で事故が起きた場合に相続人が取れる手段として「相続放棄」があります。これについてはご存知の方も多いかと思われます。
ただ、その相続放棄の手続きは「3ヶ月以内」「家庭裁判所へ申述」「法定単純承認事由を行っていない」などいくつか要件があり、相続放棄をするなら行ってはいけないことなどもあります。
反対に言うなら、法定単純承認(相続したものと看做す制度)などの事由を行っていると、相続放棄はできなくなり、また相続放棄を既にしていたとしても、その相続放棄は無効だと言われてしまう可能性があるということです。
ですので、相続放棄を検討するような場面での遺品整理というのは非常に注意して行わなければいけないものであり、ちょっとした油断から故人が負うべきだった室内の原状回復費や自殺などの場合は多額の賠償金などを相続人が負わなければならなくなったりします。
最近の傾向としては、賃貸物件の契約時に家賃の保証会社と契約しているケースも多く、家族などが契約上の連帯保証人になっていない場合が増えてきました。
このケースですと、相続人としては故人に目立ったプラスの財産がなく、相続してもマイナスの財産ばかりと予想されるなら「相続放棄」を選択するのが安全です。
もちろん、相続放棄をすることで家主側には多大な迷惑を掛けることにもなりますので、話し合いを行った上で譲歩できる部分は譲歩し、自分達の生活を守れる範囲で誠意をみせていくことも大事ですが、家主側の請求があまりに過大な場合は「相続放棄」もやむなしとなります。
ただ、大家側(貸主側)としては、家賃の保証会社によって未納家賃は回収できますが、一般的な家賃保証会社はあくまで家賃の保証だけですので、事故物件で問題となるような「原状回復費用」「逸失利益の賠償」などは行ってくれません。
ですので、大家側としては、家賃の保証会社では保証されないこの部分を遺族に支払って欲しいと考える訳ですが、遺族が「相続放棄」を選択してしまうと、請求できなくなってしまいます。
そうなってしまうと大家側としても大損害となりますので、なんとか遺族が相続放棄をせずに原状回復費や損失家賃の保証などをしてもらえるように色々な手を打ってきます。
この大家側が打ってくる手段が「遺族との話し合いでの決着」というなら問題ありません。遺族側としても大家側に迷惑を掛けて申し訳ないと感じている事も多く、家族としてできる限りの償いはしておきたいと考えている方も多くいます。
ただ、実際問題として大家側から請求される金額が不合理で遺族側が納得できないような金額のケースが多いので争いになってしまい、最終的に相続放棄や訴訟に繋がってしまうわけです。
話し合いで決着を付けるのが難しいと感じる場合、大家側としてはどのように対策を打ってくるのでしょうか?それは、上で述べたように、遺族が「相続放棄」できない状態にまでもってくるということが考えられます。
よくあるケースとして、遺族側に原状回復の見積りを出すので少しまって欲しいと伝えて、見積書を出さずに相続放棄できる期間の3ヶ月を経過させるような場合。または、事前に合意書や念書などで相続放棄をしない意思表示をさせるなどです。
この合意書や念書などで相続放棄をしない意思表示というのは、何も「私は相続放棄をいたしません」と直接書かせたり、署名捺印させる訳ではありません。
たとえば、「借主Aの相続人BはAが室内に残置した物について貸主Cが処分することを許可し、BはCが行った残置物の処分に対しては一切異議申し立てはいたしません」
のように、室内に残った遺品を相続人ではなく、貸主側が処分する場合に良くみられる合意書などの文言ではありますが、賃貸物件で事故が起きたような場合の遺品整理の場面では、相続人が故人との関わり合いを拒否して遺品整理を大家側に任せるケースがあります。
大家側としても、相続人がいる以上は勝手に残置物を処分することはできませんので、あとあと遺族から文句を言われないように、このような合意書や念書を書いてもらうことが良くあります。
ただ、この一見問題ないような合意書であっても、注意が必要です。この合意書の文言には故人の財産を処分することを許可するという内容が含まれていますので、言ってみれば相続人が故人の財産処分を貸主側に依頼したとみられる可能性があります。
相続人が故人の財産を処分する行為は前述した相続人が相続したものとみなされる「法定単純承認事由」に該当するもので、相続放棄ができなくなる事由となります。
もちろん、合意書に署名捺印したからといって、すぐに相続放棄ができなくなったり、無効になったりする訳ではなく、処分された残置物の内容だったり、当時の状況なども考慮されますが、相続放棄できなくなる危険性があるということに注意が必要です。
また、次のような文言にも注意してください。「借主Aの相続人Bは借主の権利義務を承継し、室内に残された残置物を速やかに撤去し、原状回復してから貸主Cに引渡しを行うものとする」
これも賃貸物件で起きた事故の際に交わされる合意書の一文として考えられるものですが、一見、遺品整理をして、一般的な原状回復を行えばそれで良いように読めなくもありません。」
そのように考えて、遺族が遺品整理業者に依頼して遺品整理と賃貸物件における一般的な原状回復を行った上で貸主に引渡しを行ったら、後日多額の賠償金の請求が来たなんてことが起きたりします。
遺族側としては合意書に記載されている通りに行ったのに何故?となるのですが、注意すべきは「権利義務を承継し」の文言。これは簡単に言えば、借主であったAが有する権利も義務も相続人たるBが全て引き継ぎます。ということです。
つまり、この文章によってBはAの責任を全て負うことを承諾しますという内容になっている訳です。ですので、事故の内容が自殺だったような場合は、本来賠償の責任を負うべきだったAの代わりに、Bに対して貸主側から請求がきたということです。
合意書や念書などには法律用語が混ざっていることも多く、法律用語に馴染みの無い一般の方にとっては「そういう言い回しをする物なのだろう」と見落としがちです。
もし、ご自身が事故物件の当事者となり、合意書や念書などを提示されたとしてもその場で記入することはなく、いったん自宅に持ち帰り、家族や専門家に相談した上で返事をするようにしてください。
でないと、知らない内に本来なら相続放棄で責任を免れることが可能だったのに、いつのまにか相続放棄できなくなっていたなんてことになってしまうかもしれません。
賃貸物件で起きる事故については様々な問題点が発生いたしますので、何か行動をする前にお近くの専門家にご相談くださいね。
名古屋の遺品整理・特殊清掃専門 第八行政書士事務所 代表 谷 茂
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